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あるインド人の死
インド人社長の弟の話
二〇二一年正月、私は得意先のインド人の会社に挨拶に行きました。その会社はインド食材の輸入小売とレストラン経営をやっており、西葛西にはインド食材店があり社長はいつもそこにいました。
輸入と営業、顧客管理に人手が足りず、インド人の弟をインドから呼ぼうとしましたがうまくいかなかったそうです。理由は主に事業所が存在しないことでした。
いまどき事業所などなくてもスマートフォン一台もって走り回れば仕事になるし、パソコンも店のかたすみに一台あれば十分です。しかしそれがレジの隣にあるようでは入管法で「技術・人文知識・国際業務」ビザに禁止されている接客をやるのではないかと疑われます。そこで事業所が必要なのです。
それを言い出したら社長室もなければならないのですが、そこは見逃されているようです。
私は事業所に関する不動産情報や、他のあれこれの仕事の提案をたずさえて行きました。新年早々、仕事がほしいので。
私が店に着くと社長が出迎えてくれました。そして店の二階を事業所用に月額十三万円で借りたと聞きました。「とうとう決断されましたね」という感じだったのですが、社長は少し暗い表情で二階の事業所を見せてくれました。倉庫のようになっていましたが、これを片付ければセパレートで仕切った事業所ができるだろうと。
しかし社長は「実は……」と。
「一月二日に弟が亡くなりましてね。病気による急死で。インドへ帰りたかったがコロナのため飛行機があまり飛んでないし。第一、店を閉めるわけにいかない」
「そうでしたか……」
私は通じるかどうかわかりませんでしたが「ご愁傷様です」と言って店をあとにしました。
翌日、私はお花屋さんで白とオレンジのトルコキキョウを買い、再び社長のもとに行きました。「ご霊前に」という言い方が正しいのかどうか、日本の仏教式の献花がヒンドゥー教ではどう捉えられるのか、不安ではありましたが「弟さんへ」と言って渡しました。
花はガネーシャを祭った祭壇に飾られています。
この写真はアニマルボイスさんが撮影したものです。「一月にふさわしい花を」とリクエストしたところ「二ホンズイセン」を送ってくださいました。
日本水仙はどこにでも自生している馴染み深い花ですが、アニマルボイスさんが写真提供した本によると地中海沿岸が原産だそうです。それが中国南部を経由して日本列島の海岸部に流れ着いたと考えられ得ているようです。
ブログ「アニマルボイス」
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